米国のThe Right Question Institute (正問研究所)のDan Rothstein , Luz Santana らが開発実践してきた授業方法で、Question Formulation Technique  (質問づくりの方法)と呼ばれるものです。教師が質問して子どもが答えるという従来の授業方法からの大きな転換です。

TILA教育研究所では、「子どもが問いを創る」という考えを大切にし、日本の学校でより実施しやすいように、理論を新たに構築し、その理論に基づき授業方法を構成したものです。子どもの言葉で問いを創る授業では、付箋紙を活用することで、子どもが創った問いを操作しやすくしたり、新たに考案したワークシートを用いることで問いを整理しやすくしたりしています。子どもが解決したい共通の課題を明確にし、その後の授業でその課題を解決していきます。

「子どもの言葉で問いを創る授業」のここがすごい!

(1)学校種、教科、領域を問わずに実施できる

「子どもの言葉で問いを創る授業」は、学校種、教科、領域を問わずに実施できる授業方法である。幼稚園から大学までどの学校種でも実施できる。さらにどの教科、領域でも実施することができる。学校全体で取り組むことで児童生徒は、さまざまな教科で問い創りを行うことになり、問いを創ること、問いを整理分類し収束または包括する技能が早く身につく。教科に関係なく、学校全体で授業力の向上に取り組むことが可能である。また小中連携で実践することで9年間という長い時間をかけてじっくりと子どもたちの探究力を育てることができる。

(2)学びのスキルが身に付く

 ・問い創りや問いの整理分類を通して、他者から学びのスキルを学ぶことができる。

 ・小学校6年間、中学校3年間の在学中に学びのスキルを積み重ねることができる。

 ・小中連携で実施すれば、9年間で学びのスキルを積み重ね、深い学びにつなげることができる。

 ・児童生徒全員が同じスキルを身につけることができる。

 ・「質問づくり」のルールを守る指導や他者の意見を尊重する指導は、学校として一貫性のある指導となる。

(3)思考のトレーニングができる

「問いを創る」…問うためには、自分にどの知識があってどの知識がないのかを把握する必要がある。また、自分は、何が知りたいのか、何故知りたいのか、知ることによってどうするのか、知ることによって何ができるのか、知ることによって何が変わるのかなどを考えることができる。つまり、こうした作業は、その事象に関するその人の思考を、広げたり深めたりすることができるようになると考えられる。

・「問う力」(自己に問う力、他者に問う力)を育むことができる。

・自分の知識を整理できる。(何を知っていて、何を知らないのか)

・自己の対象に関する知識や考えを俯瞰することになるため、メタ認知の育成にもつながる。

・学びの方向性を明確にできる。(授業のねらいがわかる)

(4)自己の価値観を形成(自覚)し、判断力を養うことができる。

問いを創る作業は自分の価値観を形成していくことにもつながる。「問い創り」では、子どもたちが解決したい、共通の課題を設定します。子どもたちが創った問いを「収束」・「包括」させことにより、自分たちが解決したい共通の課題を見つける。

最終的に3つ程度の質問に絞り込「収束」は、何を残して、何を捨てるかということであり、取捨選択する過程は、ある一定の価値観による判断である。「問い創り」を行うことにより、自己の価値観を形成しその価値観に基づく判断力も育成されると考えられる。そして、これは生徒指導の三機能である、自己選択感にもつながるものである。

また、子どもが創った問いを、まとめてさらに大きな問いにする「包括」では、子どもたち一人一人が創った全ての問いを生かして自分たちは何を知りたいのかという共通の課題設定を行う。

(5)どのように問えば(調べれば)良いかを学ぶ。

問いを創る際にどのように問いを創ることで、どのような情報が得られるのか、得られないのかを体験的に学ぶことができる。またそれは、他者に対して問うことだけではなく、創り上げた問いを元にどのように調べていけばよいのかを学ぶ機会にもなる。

(5)認め合いの活動ができる。

 「問いづくり」は、個人での作業もあるが、基本的にグループでの活動である。 「問い創り」のルールとして、「出てきた問いに対して評価しない」というルールがある。これは短い時間の中でたくさんの問いを作り出すためには、一つ一つに対してこれが良いとか悪いとか評価をしたり、それに対して答えたりしていると時間が足りなくなる。そのために、出された問いは評価しないというものである。このルールは、時間の節約という面もあるが、一方で誰もが安心して意見を出せる場を形成するという意味もある。誰が出した「問い」であっても等しく同じように扱われる。つまり、誰もが同等であるということを意味している。そしてそのルールが保障されることにより、誰もがどんな「問い」であろうとも、人にばかにされるのではないかなどと心配することなく「問い」を出し合うことができる。つまり、このルールの下で問い創りの活動を積み重ねることは、活発な意見交換を促すとともに、互いに尊重し認め合う活動であると言える。

(6)学習規律形成の機会となる。

 ルールに従って、「問い創り」を行うことにより、互いに尊重し合い、協力して学ぶ場を形成することができる。 「問い創り」のグループ活動は、互いに尊重し認め合う体験である。それと同時に、互いに尊重し合うために 「問い創り」のルールが守られることは、学習規律を作り上げることに通じる。どの教科においても、年間を通じて授業の中で「問い創り」を行うことにより、学校として一貫した授業規律づくりにつながることが期待できる。

(7)自我関与の機会となる。

 自分で考え、他者の考えを聞き、グルーブとしての質いを創り上げる過程は、自我関与する場面であり、出来上がった「問い」は自我関与した成果物と言える。次の授業展開(新しい単元への導入・調べ学習・作文を書くなど)に、自分たちが作成した「問い」を使うことにより、より意欲的に授業に参加する態度を形成することが期待される。

(8)合意形成を学ぶ機会である。

 自分が考えた「問い」を互いに発表し、他者の意見を聞き、最終的にグループとして最も大切であると考える「質問」を3つ選ぶ。あるいは、仲間が創った問いを整理分類し、すべての問いが含まれるような大きな問いを創る。このプロセスは、自己の考えを他者に伝える訓練であり、他者の意見を聞き自分の考えを修正しながら、グループとしての意見を合意形成する作業であると言える。